眠れる森
A Sleeping Forest



第十一幕 ◆ 「殺人者」


Reported By No.475 春鈴


「white x'mas」を口ずさむ男の声…
東京タワーを見上げるサンタクロースの後姿。

朝靄の河原・・・・

倒れている女・・・あのマリア像と同じポーズを取った手・・・
絞められた跡がある首・・・血の気を失った顔・・・

・・・・由理が・・・・・・・殺された。

 

<警察病院>

警官とともに入ってくる直季。
神妙な顔つきで青ざめている。

通された部屋を見て、釘付けになる。
霊安室?由理が死んだ?
「霊安室」という文字を呆然と見つめている。

「警視庁捜査一課の恩田といいます。あなたが探している女性か確認してください。」
声を掛けられビクつく直季。

放心状態で刑事の声も耳に入らない。
背中を押されハッと気づき部屋の入り口に立つ。
ストレッチャーに寝かされ白い布を掛けられた遺体がそこにある。

これは現実なのか?由理が死んだなんて。嘘だろ?
確かめるようにゆっくりゆっくり近づき、顔に掛けられた白布を取る。
由理だ。

やり場のない怒りが込み上げてくる。白布を床にたたきつけ、泣き崩れる直季。
・・・ゆっくり顔を上げ横たわっている由理を見つめる。「ゆ・り・・・。」声にならない。
慈しむように由理の額に手をやる。・・・冷たい・・・・・・

輝一郎と実那子が敬太の連絡で掛けつける。長椅子で項垂れる敬太。

霊安室のドアが開かれた。
そこには、由理の横で蹲っている直季の後姿が・・・

沈痛な思いで直季を見つめる実那子。

由理を殺したヤツを俺の手で見つけ出してやる。
由理を見つめる直季の眼は、獲物を見据える野獣のように鋭く光っていた。

 

A Sleeping Forest 〜眠れる森〜 第十一幕:殺人者

              〜サウンドトラック“眠れる森”〜より。

 

<商店街>

由理を殺した犯人を突き止めるてやる。
心が急くように商店街を足早に歩く直季。直季に付いて歩く敬太。

直季「由理が現像に出すとしたら、絶対この近所だと思うんだよ。
   この先にサ、別の商店街あるからお前そっち行ってみて。」
敬太「どうして写真の事、警察に話さなかったんだ? 国府は写真を取り返すために・・・」
直季「写真取られたぐらいで、人殺すか?そこまで馬鹿じゃねぇだろ。」
敬太「それは警察が調べるこったろ。」
「俺達でやるんだよ.由理殺したヤツ俺達で見つけんだよ!」と敬太に掴みかかる直季。
「俺達だけで何が出来るんっつんだ。」と言いながら直季の手を振り払う敬太。

犯人探しに乗り気じゃない敬太にいらつき、胸倉をつかみ責めるように、
「お前好きだったんだろ?」と敬太に詰め寄る。
「・・ああ…お前よりもな。」と、敬太は直季を見下すような目つきで言った。
直季「・・・・・だったら、早く行けよ。」

先へ急ぐ直季の後姿を、冷めた顔で見つめる敬太。

 

写真店の店員の証言で由理は午後3時ちょうどに出来あがった写真を受け取り来ていた事がわかった。

 

<由理の遺体が見つかった河原>

土手に立ち、由理の遺体の見つかった河原を見つめる直季と敬太。
遠くで刑事らしい男2人が何やら話している。

直季「写真を見た午後3時から死亡推定時刻午後10時までの7時間、
   由理は俺のとこに戻ってきてもないし会社にも行ってない。」
敬太「犯人は由理が写真持ってる事、どうやって知ったんだよ。」
直季「きっと、由理の方から近づいたんだよ。」
敬太「自分から殺されに行ったってのか?じゃあこの辺に土地勘の有る人間かな?」
直季「いや殺人現場はここじゃない。」
敬太「どうして。」
直季「だって考えてみろよ。主導権は由理が握ってんのに何でわざわざ知らない場所で会うなんて
   危ない事しなくちゃいけないんだよ。…・・午後10時犯人と2人きりになった場所は絶対他に有る。」

怪我の跡が痛む。手を回して後頭部を押さえる直季。
敬太「おい大丈夫か。まだ痛むんだろ。」心配する敬太に返事もせず、その場を後にする直季。

 

<植物園>

実那子宛に手紙が届いていた。差出人は・・由理だった。
テラスのベンチに座って手紙を読む実那子。

「12月10日午後8時 この手紙を書いています。
実那子さんにまつわる事件の事は敬太から聞いています。
今夜私にどういう出来事が待っているのかはわかりません。
でも、これだけは実那子さんに伝えておきたい。
あなたは自分の過去から目をそらすべきではありません。負けないでください。実那子さん。
私も負けません。直季の苦しみを分け合って直季と幸せになるために。   佐久間由理 」

悲しくため息をつき、考え込む実那子。

 

<新居のマンション>

実那子は結婚式を取りやめようと輝一郎に持ちかけた。
結婚式当日、国府は絶対自分たちの前に現れ、必ずクリスマスプレゼントを届けに来る。
しかし、輝一郎はガンとして聞いてくれない。

国府におびえて暮らすのは実那子も嫌だろう・・・という輝一郎。
言い返そうとするが言葉が見つからない。

 

<波止場>

高橋として旅行会社に潜り込んでいた国府。社内では温厚な人間を装っている。
全てはクリスマスイブの為に・・・

仕事仲間と別れ一人になった途端、凶悪な目つきの男に豹変した。

その不敵な笑みの先には、輝一郎と実那子の船上結婚式の船が・・・・

 

<直季のアパート>

煙草をふかし考え込む直季。
様子を心配して敬太が尋ねてきた。
テーブルの上に封筒が置かれている。

直季「俺に持ってて欲しいって、さっき由理のお袋さんが持って来た。」
中身は定期入れだった。中を見る敬太。

写真入れの中に由理と直季の写真が入っていた。
この写真は3人で撮った物だったのに自分の所が切られている。
複雑な気持ちで眺める敬太。敬太から目を逸らす直季。

定期入れの中にレシートが挟んであった。
敬太「これ・・レシート。そういや、刑事が言ってた。
   レシートから殺される当日の行動はほぼ把握できたって。」
その言葉にふりかえり由理の残したレシートを一枚一枚確認する直季。
敬太「でも由理って店で貰ったレシートこう几帳面とっておくやつだったか?」
直季「いや・・・あいつ俺達に自分の足取り伝えようとしてたのかもしれない。」

地図を広げ、レシートの時間と場所から、順に追っていく。
由理の立ち寄った場所に赤丸をつける。
死亡推定時刻と重ね合わせると芝公園付近が殺害現場になることがわかる。

直季「由理はまず写真を受け取って、南青山にむかった。
   で、乃木坂、六本木、東麻布、芝公園」と線で結ぶ直季。
敬太「タクシーかバスで移動だな。」
直季「・・…歩いてる。」
敬太「ん?」
直季「あの道だ・・・」
敬太「あの道?」
直季「俺と一緒に歩いた道だ。」辛そうな顔で涙声になる。
直季「だとすると・・・由理が最後に向かった場所は・・・・」

直季と歩いた道・・・ここを通れば直季が付いててくれるような気がして勇気が湧いてくる。
心を決め約束の場所に向かう由理。

由理の向こうに東京タワーが見える。

 

<輝一郎の父、正輝のアトリエ>

実那子の絵が完成する。
正輝は輝一郎に実那子の絵を新居に飾り、母麻紀子の絵を処分するように話すと言った。

また、輝一郎が福島の大学に進学したのは輝一郎を捨てた麻紀子のふるさとで
母が少女時代を過ごした場所だったからか、いつか失踪した母がふるさとに戻ってくると待っていたのからか・・・と聞く。

 

<ビルの屋上>

直季と敬太は東京タワーの見えるビルの屋上で由理の葬式することにした。
いつものウオッカとレモンで・・・
12月半ば・・夜空の下は冷える。風がコートの中まで入り込んでくる。

直季「俺お前に話してなかったっけ。ここさ俺仕事とかで行き詰まったりするとよく来てたんだ。」
敬太「へぇ・・・」
直季「お前いつか言ってたよな。俺が照らした由理に自分は惚れたって…それ違うよ。
   結局、俺、最後まで由理に何の光も与えてやる事出来なかった。」

乾杯してから殆ど酒に口をつけていない敬太。
直季「お前飲めよ.全然飲んでねえジャン。」
敬太に勧められて一気に飲む敬太。何だか落ち着かない様子だ。
直季「どうして由理は俺の身代わりで殺されなきゃいけなかったんだろ?」
敬太「あんなフィルム手にしたからだろう。お前がサンタクロースの正体なんかカメラで撮らなけりゃヨ。」
直季「そうだよな・・・・でもほんとにそいつが…サンタクロ−スが由理殺したのか?
   確かにあの写真にはサンタクロースの正体が写ってる。15年前の事件の真犯人・・・」
敬太「決まってんだろ。」直季の言葉を遮る敬太。

敬太「サンタが由理殺したんだよ.国府が・・。」
直季「いや、でも、もしサンタの他に一人・・もう一人いるとしたら・・・」
敬太「写真をネタに真犯人を強請ろうとしてたヤツがいたってことか。」
直季「だって金になんだろ。」と冷たい口調。
敬太「その人間が写真を横取りして、由理を口封じに殺したって言うのか?」
直季「うん。」
敬太「由理以外であの写真の存在知ってるのはお前しかいないだろ。」
直季「いや、お前もだよ。」
冷たい風が二人の間を吹き抜ける。言葉をなくす敬太。

直季「由理以外にあの写真の存在知ってるのは今ここにいる俺とお前だけだよ。」
ウオッカを一気に飲み干す直季。「飲めって。」と敬太に勧める。
敬太「何が言いたいんだよお前。」
返事もせず、急に立ちあがる直季。
敬太「オイ。何してんだよ。」
直季「エッ、ひょっとしたら犯行現場に、犯人、何か残してるかもしんないとおもって・・・」
あたりを見まわす直季。

直季「あ…なあ・・敬太。」
敬太「何だよ。」
直季「それどうしたの?」
敬太「へ?」
直季「(左手を叩いて)キズ…俺ずっと気になってたんだよ。(悲しい眼で敬太を見つめる。)
   どうゆうイザコザがあったら、そんなキズになるのかな・・・と思って。」
敬太の左手には新しい何かで引っ掻いたような傷がある。
敬太「いつもの取立て屋だよ。お前いい加減にしないと怒るぞ。」

直季「何だこれ?」
直季の言葉に、立ちあがる敬太。
煙草の吸殻を拾う直季。
直季「ハイライト・・・・こんな短くなるまで吸うなよな。」と敬太をみつめる。
敬太「そんなもん残しとくかよ。」
直季「誰が?」
敬太「犯人だよ。犯行現場に唾液のついた吸殻なんか・・」
直季「お前ここに居たろ。」悲しみと憎悪の目で敬太を見つめる。
敬太「・・・・・・・・・・・・・・・・」
吸殻を翳し、目を逸らさず敬太に近づく直季。
直季「お前だろ、敬太。」
敬太「・・・・・・・・・・・・・・・」直季から目をそらす。
直季「ふざけんなよ!!」
敬太を抱きしめる直季。
直季「何でだよ。お前由理の事あんなに好きだったのに。な・・・何でオメーが殺してんだよ!」
敬太「・・俺、死ねば5000万になるんだ。…生命保険・・・受取人は町金融。
   命と引き換えに借金返さなきゃならなくて。」棒立ちの敬太。
直季「金かよ。」
敬太「そーじゃねーよ。」
直季「じゃなんだよ。」
敬太「由理が好きだったから…由理を俺の女にしたかったから・・・」
涙があふれる直季、そんな理由で由理を殺したのか!怒りがこみ上げてくる。
直季「お前自分のした事がどう言う事か判ってんのかよ!!」敬太を突き放す。
敬太「わかってるよ.俺の手で由理の人生止めてやったんだ。俺の女になったんだ。」


12月10日の夜。

一人で取引現場に来た由理。大きく深呼吸をする。サンタクロースに近づく由理。

振り返ったサンタクロースの顔を見て驚く由理。
由理「どうして…どうして敬太が居るの?」
敬太「こんな場所に呼び出すなんて、死ぬ気かよ。
   写真持ってきたんだろ.俺にそれを譲ってくれね―か?。」
由理「どうして私がここに来るって知ってたの」
鋭い質問に答えられず、由理に襲いかかる敬太。

無我夢中で由理の首を絞める。必死で敬太の手を掴む由理。
「由理好きなんだ。由理好きなんだ。」と繰り返しながら・・・・・

死んでしまった由理を見つめる。喜びがこみ上げ涙ぐむ。
殺したことで、やっと自分のものになった由理を力いっぱい抱きしめた。


敬太
「お前から由理を奪ってやった(ニヤッと笑う)もう俺のもんだ。
   俺よくわかったよ。15年前森田貴美子を殺した犯人の気持ちが・・・・」
直季「誰なんだ?お前知ってんだろ。」
敬太「せいぜい、頭働かして考えるんだな。」と言って、フェンスを飛び越える敬太。
直季「ちょっと、お前何やってんだよ。」
敬太「くんなー!!!」ビルの端を歩く敬太。
敬太「ほんと糞みたいな人生だったよ。まさかここまで糞まみれになると思わなかった。」
直季「戻れって。」
敬太「ひとつ聞いていいか?俺ほんとにハイライトの吸殻なんか残してた?」
敬太と目をあわす事が出来ず、バツが悪そうに自分のハイライトの煙草を出す直季。
敬太「やられたー!なんだか俺達ってずっと騙し合いだったな。(煙草入れから写真を出し見つめる)
   怖えーよ。なんだか由理に会うのが。許してくれね―よな・・俺のこと」
直季「やめろよ。」
敬太「もう生きるのなんかたくさんよ。」清々したように言う。
直季「おい!敬太。な・・な・・聞けよ・な。自分にどんな過去があっても、過ちがあっても
   とにかく生きるしかね―んだよ、人間は。」

敬太ビルの下をじっと見つめている。息を呑んで敬太を見守る直季。
敬太「俺にどんな人生のやりなおしが出来るんだ?」
直季「違う.やりなおしじゃない.遣りなおしなんて、出来ないんだよ人間は。」
振り返った敬太は人生に絶望し泣いている。
直季「死ぬ事が償いになると思ったんのか?死んで楽になることが償いになると思ってんのか?」
敬太「苦しくてさ、俺。」
直季「なー聞けよ。
敬太「つらくって・・」
直季「聞けっつってんだよ!辛いんだろ。だから生きろって言ってんだよ。
   なあ.お前自分がどうして生きてるのか知りたいと思った事あんだろ。」
敬太「間違えたんだよ。間違えて生まれてきたんだよ。」泣きじゃくる敬太。
直季「んな訳ねーだろ。お前何判ったような事言ってんだよ。25だろお前・・なあ。
   判んね―んだよ。もっと生きてみなきゃ。判んね―んだよ。そうゆうことは。
   他に道なんてね―んだよ。な、敬太!敬太!(敬太ビルの下を見つめる.)
   そっちに道なんかねーだろ。道あんのはこっちだろ!戻ってこいよ。大丈夫だよ。
   俺も一緒に歩いてやるから。な。大丈夫って。」
煙草を差し出す直季.。涙で潤む瞳。

直季「ほら.ほら…ほら…大丈夫。(手を出そうか迷う敬太)ほら敬太。…大丈夫・・・おい。」
フェンスから身を乗り出し両手を差し伸べる。
直季の言葉で敬太が直季の手をがしっと掴んだ。強い痛みが走るほど強い力で。
微笑を浮かべた泣き顔で敬太は言った。「隠れ家に眠っている。」

直季の手を振り払い十字架のように手を広げ落ちて行く敬太。

フェンスを乗り越え身を乗り出す直季。「敬太!!!!!!」

アスファルトに叩き付けられ命を落とす敬太。頭を抱え、泣きじゃくる直季。
敬太の写真には由理と敬太が写っている。

 

<警察の取調室>

刑事と向かい合って座る直季。肩を落とし俯いたまま。

恩田刑事「佐久間由理の爪から発見された皮膚組織が中嶋敬太の血液型と一致した。
   DNA鑑定でもっとはっきりするだろう。佐久間由理殺害犯は中嶋敬太だ。」
直季 「・・・・・・・・」
恩田刑事「ビルの屋上で彼とはどんな話をしたんだ?オイ少しはこっちを見ろよ。」
顔を上げる直季。何も見えていないようなうつろな目。

恩田刑事「追い詰めたのか?彼を・・君に罪を詫びて飛び降りたのかい?」
悲しみに打ちひしがれ、放心状態の
直季「いいですか?話・・後でいいですか?またやらなきゃいけないから・・友達の葬式。」
と言うのが精一杯だった。

警察を出る直季。意気消沈し、夜の町をさまよう。


〜由理と敬太の回想〜


さまよい苦悩する直季が交互に映し出される。

 

―夜が明けた。
立ち止まり、大きく深呼吸する直季。何か心に決めたようだった。

 

<実那子の新居>

実那子もまた眠れぬ夜を過ごしてた。
電話のベルが鳴る・・こんなに朝早く…国府かもしれない。
出るのが怖い。・・・・、勇気を振り絞って受話器を取った。

実那子「・・…もしもし。」
直季 「・・……俺、伊藤直季。」
安堵の表情で、「あなただったの。」
直季 「俺達の、俺達の幼馴染が昨夜死んだ。」
実那子「幼馴染って?」
直季 「敬太がビルから飛び降りた.由理を殺したのは敬太だ。敬太を殺したのは・・・・・俺だ。
   隠れ家に眠っている・・・それがあいつの最期の言葉。」
実那子「へっ?」
直季 「俺達行かなきゃ…心の隠れ家に・・・」
実那子「隠れ家・・・・」

 

<植物園の事務室>

実那子を尋ねてきた輝一郎は実那子が結婚準備のためと言って休暇を取ったと聞かされる。

行き先に心当たりのない輝一郎・・・
「実那子、何処に行ったんだ。」

 

<眠れる森>

二枚の写真を見つめる実那子。
由理の手紙を読む直季。読み終わり封筒の由理の名前を指でなぞる。
実那子の手にした写真は敬太と由理のものだ。
ほんとは3人で写っている写真なのに、それぞれの想いで違う写真に変わっていた。
重苦しい空気が流れる。
鳥のさえずりが聞こえてくる。
立ち尽くしたままの直季と実那子。
直季 「実那子だったら知ってるかな?・・・・・」

直季の声「眠れる森の美女ってあるじゃん。ほら、あの有名なフランスの童話でさ。
     あのお姫様って、目覚めてすぐに王子様のプロポーズを受け入れてんだよなあ。」
     よく考えると、あれって変な話だと思わない?
     だってあのお姫様ずっと眠ってたんだろ。王子様が自分を目覚めさせるために
     どれだけ苦労したかなんて全然知らないのにさ、目の前にいたってだけで
     結婚相手に決めちゃっていいの?」
実那子の声「きっと目と目でわかったのよ。この人が運命の人だって。
     自分のために魔女と命がけで戦ってくれた人なんだって。」
直季の声「目と目でわかるかなあ」
実那子の声「わかるの。」
直季の声「何か今ひとつ納得いかないなあ。」
実那子の声「ねえ・・」
直季の声「ん?」
実那子の声「私が目覚めるとき、ちゃんと目の前にあなたがいてくれる?」
直季の声「いいよ。」
実那子の声「本当?」
直季の声「ちゃんといる。俺がいる。」実那子を包み込むような温かく力強い瞳で実那子を見つめる直季。
実那子の声「約束よ・・」信頼しきった表情の実那子。
直季の声「さあ、いこう。」
実那子の声「うん・・・」

歩き出す二人.・・・・ハンモックが揺れている。

 

<眠れる森の小屋>

カーテンが引かれ、照明がセットされている。
直巳が心配して、実那子に大丈夫かと声を掛ける。
うなずく実那子。決心はできている。それでも、緊張で顔が強張る。

直季が言った。
―心の隠れ家に眠っているものを今から引きずり出す。―

催眠療法が開始された。

ベットに横たわる実那子。照明が当てられる。
フラッシュのスイッチを入れ、傍らに座り実那子を見守る直季。
規則的にフラッシュが繰り返される。

直巳「光を感じるね。この光のリズムに身を任せてごらん。君は私の声を聞く。
   私の声を知っている。私の声を聞いて安心する。だんだんだんだん深い眠りに入っていく。
   私は今ここにタイムマシーンを持ってきた。ほらヘリコプターに似ているね。
   じゃあ、ダイヤルを回そう。1983年12月24日にセットした.場所は君のうちだ。」

切ない表情で実那子を見.つめる直季。

直巳「何の音だろう。…雨の音だ.嵐の夜だ.雷も聞こえる.12歳の君は2階に上がっているように
   お母さんに言われたね。七面鳥.も焼けてケーキも出来てこれから、クリスマスイブの
   夕食だというのに一人2階へ追いやられてしまった。それはどうしてかな?」
実那子「お客様がいらして・・・」
直巳「君の知ってる人?」
首を振り「わかりません。」

フラッシュのスピードがどんどん速くなる。
直巳「君はお母さんの言いつけ通り子供部屋で待っていた。
   そのうち下から何か聞こえたね。何が聞こえる?」
実那子「誰かが・・・」
直巳「誰かが?」
顔を押さえて恐怖で体が震えている。
強い光とともに突然上体を起こし目を見開く実那子。

実那子「誰かが叫んでる.。」


〜フラッシュバック〜


叫び声?・・・・子供部屋からゆっくりと階段を降りる実那子。
部屋の戸口から覗きこむ。。外では稲光が瞬いている。
父がゆっくりと実那子の方へ倒れ込んだ。・・・床を伝って足下に迫って来る多量の血・・・
向こうでは、母もお腹のあたりを赤く染めて仰向けに倒れている。床は血まみれだ。
「きゃーっ!」
悲鳴が聞こえる方に目を向ける。
姉が手袋をした犯人に髪を掴まれて、部屋の奥に連れ戻されそうになっている。
姉が逃げようとして掴んだ茶ダンスが倒れた。

実那子「愛してるよ。愛してるよ。貴美子。もう僕だけのものだ。誰にも渡さない.。」

直巳「その男の顔を君は・・見たね。どう?見たんじゃないの?」
実那子「そうよ.だってその人こっちに振り向いたんだもの。」と幼子のような表情を見せる実那子。12歳の実那子に退行しているのだ。

燃える暖炉の炎に照らされる男。紀美子を抱きかかえている。

直巳「眼が合ったんだね.誰だか教えてくれる?」
雷鳴が轟く。

実那子「あの人だ・・・」

炎に照らされた男がゆっくりゆっくり振り返る。大量に返り血を浴び顔中血だらけの男。
目が合い恐怖で叫ぶ実那子。「きゃーーーーーーー!!!!」

それは、国府だった。

 


【レポ後記】

今回は、直季の登場場面が非常に多く、何処を削ったらいいのかとても悩みました。
拓哉君はガラスの仮面を持つ男。
彼の目、しぐさなど文字に表すことが出来ない場面が多くなってしまいました。(だって、巧すぎてなんと文字にしたらいいのか??)
初のドラマレポに挑戦して見たのですが、今の自分の力ではここまでしか掘り下げる事が出来ませんでした。
難しい場面の連続でしたが、楽しかったです。長々と読んで頂いて有難うございました。


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