眠れる森
A Sleeping Forest



第六幕 ◆ 「真犯人」


Reported By No.632 Nokko


車のバックミラーに直季の顔が映る。
直季は国府のいとこの家の前に車を止め、その男が戻るのを待っていた。

 

その頃敬太は輝一郎と喫茶店で会っていた。
国府が出所してすぐいとこの家に立ち寄ったことがわかり、直季が今追いかけていることを報告した。

輝一郎が約束どおり金を渡し 帰ろうとすると敬太が呼び止め、
「国府の情報や直季の行動を知ろうとするのは何故か?」と聞く。
輝一郎は「実那子を守るため」だと言うが何か他の目的があるのではないかと敬太は疑っていた。

 

直季は家に戻ってきた国府のいとこに国府とどんな話をしたのかを聞いていた。
事件から10年後くらいに、国府の弁護士から実那子が植物園に就職したと聞き、それを国府に話したという。

 

実那子は植物園の事務所で事件の公判の資料を見ていた。
  『公判の資料を読んでもどうしても理解できないことがあった。
  3人を殺した国府吉春は2階から降りてきた私に気付いたという。
  なら、なら何故国府は私に何もせず犯行現場から逃げ出したのか...。
  家に誰か訪ねてきた。つまり事件の第1発見者。
  だから国府は私を殺すことをあきらめ、慌てて玄関の靴を持ち、裏口から逃げ出した。
  でもこの資料では第1発見者は国府となっている。
  だとすると、犯人は別にいる。
  それならどうして国府は裁判で無実を主張しなかったのか。』
フラッシュバックした犯行現場のことを思い出しながら考えるが、何かしっくりこない。

植物園の外では男が獲物を捕らえたかのような目をして立っていた。

国府がついに実那子の居場所を突き止めたのだ。

 

   眠れる森 − A Sleeping Frest −
      第六幕  「真犯人」

   主題歌 竹内まりや 『カムフラージュ』  

 

直季と敬太は国府がいたと思われる中華料理屋に来ていた。 

その店の主人は国府が1ヶ月前に現れたがいなくなったこと、国府に獄中結婚した女房がいることなどを教えてくれた。
敬太が奥さんは何処にいるのかと聞くと、近くにいる女をチラッと見た。妹だという。

敬太「あの、居場所に心当たりは。」

 〜 「俺には会っていない。何をしようとしてるのか見当もつかない。
   調べに来た 人間がいてもそう答えてくれないか。」  〜


妻は国府に言われたことを思い出していた。

直季「旦那さん何か言ってませんでした?」
 「いつか所帯をもとうって、そう言ってくれました。」
直季「え、他には。」


 〜  「何をするつもり?」 「しばらく別の人間になる。」  〜


直季「別の人間になる、ってそう言ったんですか。」

直季は妻がまだ何か知っているのではないかと思い、立ち上がって聞いた。
直季「あの、まだ何か隠してません。」
妻は答えることをためらっているようだった。
直季「旦那さんが刑務所に戻るようなことになってもいいんですか。」
 「地獄...。あいつにふさわしい地獄を考えているんだって。」

 

直季と敬太は港に来て話していた。

直季「犯人がもし国府じゃなかったとしたら、これどうなる。」
敬太「んー、犯人じゃないのに何故実那子ちゃんを狙うのか。」
直季「実那子は唯一の証人だった。
   でも実那子は裁判で国府の無罪に対する 証言はしなかった。
   国府はそんな実那子を逆恨みした。」
敬太「国府が裁判で無罪を叫んでたら、ま、それもわかるけどさ。
   どっちにしろ 実那子ちゃんが心配だよな。」

直季は小さくうなづきながら、時計に目をやって立ち上がる。

敬太は直季が走り去っていく姿を見ながら携帯を取り出し、輝一郎に電話をした。

 

夜、直季がマンションに戻ると由理が来ていた。

由理は部屋に上がるとブラインドの隙間から実那子の部屋を見て言った。
由理「彼女まだ帰ってないみたいね。」
直季「何の用だよ。」
直季はまだ自分のことを諦めない由理に苛立っていた。
直季「用ないんだったら早く帰れよ。」
由理「私、直季に抱かれに来たの。手の届かないものなんてどうだっていいじゃない。
    手が届くものを力いっぱい抱きしめればいいのよ。」
直季「おまえプライドねえの。」
由理「あるわよ。直季をこれほど愛してる女は私しかいないっていうプライド。」

由理は直季のことが忘れられないあまり自暴自棄になっていた。

 

マンションの下で車の音がする。実那子と輝一郎が戻って来たようだ。

由理は直季を見てふっと笑いながらブラインドの隙間を指で開け下を見た。

車から降りた実那子が直季の部屋に目をやると、由理が顔を出してきた。
由理「こんばんは。」
直季「何やってんだよ。」
直季はそう言ってブラインドを閉めた。

由理「彼女と彼氏が泊っていく夜はここでどんな気分。
   部屋の明かりが消えたのを見て、 頭かきむしってやけ酒でものんでるの。」
直季「帰れよ!」
由理「いやよ。」
直季「帰れよ!」
由理「いやよ。抱かれにきたって言ったでしょ!」
由理は机の上にあった物を部屋にまき散らし、直季に詰め寄った。
そして、薄ら笑いを浮かべながらわざと直季を怒らせるように言った。
由理「ここじゃ私を抱けない?操たててるの。
   ほかの男にいつも抱かれてる女なのに。義理堅いのね。」
直季は悲しそうな目で由理を見ると、上着を脱ぎ捨て声を荒立てて言った。
直季「早く脱げよ!抱かれにきたんだろ、早く脱げよ!」
   「何とろとろやってんだよ!おらっ。」
直季は由理の肩をつかむとベッドへ押し倒した。
直季「ここで抱きゃあいいんだろ!」
由理は涙を流していた。
直季「何泣いてんだよ!」

直季は由理を抱いた...。

 

部屋に戻った実那子はソファーに座り、公判資料を前に考え込んでいた。

そして、少し直季の部屋のことを気にしながらリビングを出ていった。

 

直季の部屋では由理が着替えながら、淋しそうに小さな声で言った。
由理「私、初めてわかった。人を好きになるって痛いよね、すごく。
    はぁー...。その痛み、私耐えられるかな。直季は耐えられそう?」

由理はこんな風に直季に抱かれても余計に淋しいだけだとわかっていた。

直季は由理に背を向けベッドに横になったまま聞いていた。悲しい目をしていた。

直季もまた、何か自分の気持ちを押し殺そうとしているようだった。
由理が部屋を出て行くと、直季は仰向けになって天井を見つめていた。

 

輝一郎は誰もいない会社で一人机に向かっていた。しかし、気が散って仕事にならない。
席を立ち、窓から外を見ていると、そこに女の姿が映った。母親だ。

輝一郎は走り去る母親の姿を追いかけ屋上に行くと、覚えのある香りがした。
輝一郎「バニラエッセンス。」
振り向くとそこにはいなくなったはずの母親の姿があった。

輝一郎はどうして今になって自分の前に現れたのか問い詰めた。
しかし答えをはぐらかし、最後に、「あの頃あなたに言ったわよね...。」
と言って階段を降りて行ってしまった。

輝一郎は幼い頃母親に言われたことを思い出していた。


 〜   「覚えておきなさい。心に何も届かない時は心を惑わす人間がいるってこと。
      おまえの心を惑わす人間はお母さんが許さない。」  〜

輝一郎「心を惑わす人間は許さない...。
    母さんどこにいたんだ。15年前のあの夜、どこにいたんだ。」

 

直季と敬太はホームレスの集まる場所へ行き、国府の行方を探した後、また港に来て、海に背を向けて話していた。

敬太「なあ、直季。」
直季「あぁ。」
敬太「大事にしてやれよな、由理を。」
直季「おまえみたいにはできないかもな。」
そう言うと直季は立ち上がって海の方を見ていた。

敬太「殺してやりたくなるよ、ときどきおまえのことを。」
直季「たぶん俺って誰のことも大事になんてできないんだと思う。」
敬太「じゃあ、大庭実那子は...10何年も見守る恋なんて、想像できないけどな。」
直季「話せば長いからね。」
敬太「聞いてやろうじゃん。」
直季「いいよ。」
敬太「いいから教えろよ。」
直季「実那子が13歳の時に群馬からいなくなって、東京の中学校に通ってるっていう のは
   知ってたんだ。近所の神社でさー、祭りがあると実那子必ず金魚すくいやる んだけど、
   またこれが上手いんだよ。手つきなんかプロ。全部俺が教えたことなん だけどさ。
   もちろん実那子は自分の腕だって信じてて、俺そういうの見ててなんか 嬉しくなって
   きちゃってさ。俺の記憶が実那子の記憶になってる。
   俺達は同じものを心の中に持ってるって、なんかそういう感動なんだよ。」

直季は懐かしそうに自分の心の中にしまってあった実那子の思い出を続けた。

直季「実那子さ、高校2年の時かな、初めて男とつき合うようになって、
   相手は野球部のサード。日曜日の日とか練習試合とか行ってさ、レモンのスライスとか
   スポーツドリンクとかいろんなもん持って応援しに行くんだよ。
   俺もそのつまんねぇ試合最後まで見てさ、あっ、夕日の当たる帰り道で2人で
   手なんかつなぎやがって、俺後ろから石投げてやろうかと思ったもん。
   電話ボックスの中で1人で泣いた時もあったな。
    あれが実那子にとって最初の失恋だったんだ。
   でも俺は慰めることもなんにもでき なかった。高校卒業して短大入って、
   でも俺はニキビ面の高校生。
   実那子さ、あー見えて自分から率先して合コンとか出るタイプでさ、
   でも酒強いもんだから、結局酔いつぶれた友達の面倒とか見るはめになって、
   いいなーと思ってた男とはツーショットにはなれないんだよね。
   ”ごめん、ユウコねゲロゲロになっちゃったからアパートまで送って帰る”、
   ”あー、ごくろうさん。じゃあ俺らもう一軒いくからさ”大体そういうパターンだな。
   で、実那子の後ろ姿にバイバイって手を振って、俺は高崎線の終電...。
   青春時代捧げちゃったよ。」

実那子のことをずっと見守ってきた直季は少し嬉しそうに、でも、どんな時も見守ることしかできなかったことに少し切なそうに話した。
ひとつひとつが大切な思い出だった。

そんな直季の実那子に対する気持ちを知った敬太は何も言葉が出てこなかった。

 

朝、輝一郎は自宅で忙しそうに仕事をしている。

実那子が輝一郎の荷物を片付けていると箱の中から輝一郎の大学の卒業証書が出てきた。
福島学院大学。
国府と同じ大学だ。
輝一郎は慌てて実那子から取り上げた。

輝一郎「国府は俺の同級生だった。同じ学生寮で暮らしてた。
   国府と実那子のお姉さんがつき合ってたことも知ってた。
   それに小学生だった実那子に俺何度か会ったことあるよ。」

実那子は今まで知らなかった婚約者の過去に戸惑いを隠せなかった。

輝一郎は幼い頃の実那子との会話を思い出した。


 〜  「国府さーん。国府さーん。」 「国府は大学から呼び出し。」
     「えー。せっかくお姉ちゃんからラブレターあずかってきたのに。」
    「実那子ちゃんは恋のキューピットだな。」
    「そうよっ。」そう言って手紙をかわいく振って見せた。  〜


輝一郎は3年前に実那子とつき合い始めた時、国府に家族を殺された女の子だとわかっていたが、事件を忘れて生きてる実那子には話すべきじゃないと思ったこと、そして国府と実那子のお姉さんがクリスマスにかけおちするつもりだったことを話した。

実那子は不安と驚きを隠すように輝一郎に聞いた。
実那子「ねぇ、私ってどんな女の子だった?」
輝一郎「あの頃の実那子...、あ、あの頃の実那子は男の子の遊びが好きな女の子だった。
   寮の裏庭でよくキャッチボールしたよ。」
実那子「私カーブとか投げた?」
輝一郎「だってそれ、俺が教えたんだ。」
実那子「そうだったんだ。(キャッチボールの思い出は直季の記憶じゃなかったの?)」
輝一郎「安心していいよ、実那子。伊藤直季のお父さんが実那子に与えた記憶は
   驚くほど実際の実那子の記憶とよく似ている。」

実那子は突然知らされた事実を必死に受け止めようとしているようだった。

実那子がキッチンに行くと、輝一郎は卒業証書を箱の中に戻し、クローゼットの奥にある物に目をやった。
そして、隠すようにかけられている布を取った。
輝一郎が描いた母親の絵だった。

輝一郎は何かに怯えるような形相をしていた。

 

次の日の朝、直季は仕事に行くためいつもの道を歩いていた。
すると、例の牛乳屋から実那子が出てきた。直季が来るのを待っていたのだ。

実那子「おはよう。」
直季は実那子が自分を待っていたことに少し驚いた表情を見せた。

直季 「福島学院大って。」
実那子は昨日、輝一郎から聞いたことを直季に話し始めた。
実那子「そう、国府と同じ。同級生だったんだって。
    あなた以外にも昔の私を知ってる人が身近にいたってことなの。」
直季 「それじゃ何、その頃からずっと知ってる女の子と偶然3年前に再開したってこと?」

直季はやっぱり何かがおかしいと思った。が、実那子は運命が2人を引き合わせたと信じていた。

実那子「私達はそういう深いところでつながってたんだなーって、初めてわかった。
    私、幸せになれそうな気がする。」
そう言って仕事場に向う実那子の後ろ姿を見ながら、自分以外にも実那子の過去を知っている人間がいたことに直季は少し淋しそうな顔をした。

 

直季のマンションに誰かが訪ねてきた。
ドアを開けると輝一郎が立っていた。

直季 「あっ、国府についてどれだけ調べたか。知りたいんですか。」
輝一郎「まぁね。」
直季 「同級生だもんね。」
輝一郎「実那子から聞いたのか。」
直季 「えぇ。」

直季はタバコを吸いながら輝一郎に聞いた。
直季 「あー、3年前彼女と異臭事件の起こったコンサート会場で知り合ったのって、
    あれ偶然ですか。」
輝一郎「君はどう思う。」
直季 「いや、運命ってあんまり軽はずみに信用しない性質(たち)なんで。」

輝一郎は部屋の中にある照明道具を見ながら言った。
輝一郎「どんな物でも光の当てかたでまったく別の物に見えたりするんだろ。」
直季 「それが仕事ですから。」
輝一郎「君が実那子に当ててやりたかった光って、どんな光なんだ。」
直季 「あなたは国府に家族を殺された女の子だと知っていて3年前実那子と再会した。」
輝一郎「その通りだよ。」

直季は輝一郎の答えを聞いて、大きく目を見開いた。予感は当たっていた。

輝一郎「寮で一緒だった国府が実那子の家族を殺して、実那子を1人ぼっちにした。
   そのことで俺も少し責任感じてたからね。
   あー、群馬の森で実那子が君のお父さんから何かの治療を受けたことも知ってた。
   ただ、どんな治療を受けて3ヶ月後叔父さんのところへ戻ったのか、
   そこまではわからなかったけどね。」
直季 「じゃあ、うちにも来たことあるんですか。」
輝一郎「あぁ。」
15年前、輝一郎が自分の近くにいたことに直季は驚いた。

輝一郎「俺はそうやって実那子の人生をずっと見守ってきたんだ。
   だから、コンサート会場の異臭事件で出会ったのも、出会うべくして出会ったって
   言えるのかもしれない。」
直季 「要するに、2人は別々の角度から実那子をずっと見てたってことですか。」
輝一郎「あぁ。だから君の話を初めて聞いた時、こいつ他人じゃないなって感じしたよ。」
輝一郎にそう言われると、直季は少し困ったように笑ってみせた。
輝一郎「ここにはまだいるのか。」
直季 「いえ、心配しなくてもお2人の結婚式が終わって、新婚生活が始まる頃には
   いなくなりますよ。そこまで俺、自虐的じゃないから。」

輝一郎は国府はカーっとなると手がつけられなくなるから、あまり突っ走らないよう忠告する。

帰ろうとする輝一郎を直季は呼び止めた。
直季 「濱崎さん、俺どうしてもひとつ引っかかることがあるんですよ。
    国府は実那子に指一本触れずに逃走してますよね。もうすでに3人も殺してる
    国府がどうして実那子だけ殺せなかったんでしょう。
    考えられるとしたら、その場に誰かがいた。犯人は逃走せざるを得なかった。」

直季は実那子と同じことに疑問を抱いていた。輝一郎は顔色を変えた。

輝一郎「その場に来た人間なんて誰もいないよ。」
直季 「いますよ。国府がいます。」
輝一郎「本人がそう言ってるだけだ。」
直季 「でも、もし国府が犯人だとしたら生き証人の実那子の前で
   第1発見者を装ったことになりますよね。」
輝一郎「じゃあ君は真犯人は別にいるって言うのか。」
直季 「んー、それは..わかりません。」

輝一郎が出ていくと直季はため息をつきながらブラインドを閉めた。

 

空は雷が鳴り響いていた。

実那子は事務所で1人、書類の整理をしていた。そろそろ仕事も終わろうかとした時、
由理が何か思いつめたような顔をして訪ねてきた。

由理は早く婚約者と幸せになり、その幸せを直季に見せつけろと言う。
実那子「あなたの気持ちわからなくないけど、でも誤解してる。
    彼の私に対する感情は愛なんかじゃない。」
由理 「言いきれます?」
実那子「義務感みたいなものよ。それはだぶん、最初は初恋だったかもしれないけど、
   15年間も私の後ろ姿を見つめ続けてきて、こうなったら最後まで見つめて やろうっていう、
   自分への義務感よ。」
由理 「だから愛なんじゃないですか。あなたの気持ちはどうなんですか。」
実那子「私は12月には結婚して家族を作る。それしか考えてない。」
由理 「直季のことはまったく考えませんか。」
実那子「最初は気味の悪い人だと思った。私の幸せを乱す人だと思った。憎んでもいた。
    でも、こういう人なんだっていうのがわかって、
   あっ、でもだからと言って好きには ならない。本当よ。」
由理が何か言い返そうとすると、外ですごい稲光が光った。

そして、その光が実那子の目に入った。
実那子は顔を手で覆った。何かが見える。

フラッシュバックだ。
実那子は近くの机につかまり、震えている。

次々と映し出される光景。幼い実那子。血まみれの家族。
そして今まで見たことのない新たな光景が映った。鏡に映っている自分を見ている実那子。
そこには恐ろしい自分の姿が映っていた。
実那子の服にはべったりと血がついている。

そこまで思い出すと実那子は床に倒れてしまった。
手のひらを見て怯えている。
鏡に映っていた自分の姿。その時、実那子の手には....。

 

病院の廊下のドアを次々と開け、実那子のいる病室へ向かう直季。

病室の前には輝一郎と由理がいた。
実那子はまだ診療室に入ったままだ。

輝一郎「またフラッシュバックが起きたのかもしれない。」
直季はカーテンの隙間から気を失っている実那子を見た。

輝一郎「今度は何を見たんだろうな。」
直季 「国府じゃない誰か、かもしれない。」
輝一郎「国府じゃない誰か?」
直季 「ほんとの犯人です。」
直季は輝一郎の方を見て話を続けた。
直季 「犯人は実那子が狙いだった。実那子を殺すために嵐のクリスマスイヴにやって来た。」


 〜  「おまえの心を惑わす人間はお母さんが許さない。」  〜

輝一郎はまた母親の言った言葉を思い出していた。

直季 「犯人は実那子を守ろうとする家族3人を次々に殺し、
   でも、肝心の実那子は 殺せないまま逃げざるを得なかった。国府が来たからです。」
輝一郎「誰が、何のために実那子を殺そうとしたって言うんだ。」
直季「わかりません。」
輝一郎「わからないならいい加減なことを言うな。」
輝一郎は直季の言うことに敏感に反応し、恐ろしい目で直季を睨(にら)みつけた。

診療室のドアが開いた。実那子が目を覚ましたようだ。

輝一郎がまた何か見たんじゃないか、と聞くが実那子は何も答えない。
実那子の様子が何かおかしいと、直季は気付いた。

実那子「私..見たの。」
実那子はうすら笑いを浮かべながら答えた。
実那子「家族を殺した犯人。」
輝一郎「国府だろ。」
実那子「ううん。」
実那子は首を横に振り立ち上がった。

輝一郎「じゃあ、誰だったんだ。」
輝一郎は実那子が言う真犯人の名前に怯えているようだった。
実那子「あたし...。鏡に映っている私。」
実那子は病室の窓に映る自分を見ながら言った。
実那子「私は手に刃物を持っていた。私の服には血がついていた。」

実那子の息が荒くなる。

実那子「家族を殺したのは私よ。」
   「だから、国府吉春は私を探してるんじゃない?自分に罪を着せた真犯人に 復習するために。
   考えるとつじつまが合う。どうして私だけ生き残ってたのか。
    私は殺されずに済んだのか。それは、私が犯人だからよ。」
輝一郎「12歳の女の子にそんなことできるはずが...」
実那子「ない?ねぇ、ない?ほんとにない?
   私は、私は刃物を持って大人の背中に 忍び寄るような子供だったのかもしれないのよ。」
輝一郎「そんな子じゃなかったよ、実那子は。」
実那子「輝一郎に何がわかるのよ。」
実那子は泣きじゃくりながら自分を責め続けた。
実那子「あなた達に...あなた達に何がわかるのよ。」

実那子はベッドに泣き崩れた。
自分を待ち受けていた恐ろしい過去にどうしていいかわからず、ただ泣き続けるだけだった。

輝一郎もかける言葉が見つからずただ見ているだけだった。

直季 「調べてやるよ。」
実那子が真犯人だとは信じられない直季は、こんな恐怖に陥ってしまった実那子を守るため、真実を探そうとしていた。

実那子の涙が止まった。

直季 「実那子がどんな女の子だったか、俺が調べてきてやるよ。
    もう、実那子は心配しなくていいからさ、何にも。
    濱崎さんとの結婚の準備進めてればいいよ。」
直季は実那子のそばに行き、なだめるように言った。
直季 「俺行って来るから。」
輝一郎「どこへ行くんだ。」
直季 「福島県御倉市。実那子の故郷。」

そう言って直季は病院を後にした。

 

次の日の朝、国府吉春がマンションの入り口に座り込み、歌を口ずさみながら折り鶴を折っていた。
ついに実那子のマンションを見つけたのだ。 

国府は折り鶴を手のひらに乗せると、タバコの煙で吹き飛ばした。 

地面に落ちた折り鶴...。国府は実那子の帰りを待っていた。

 


☆ レポ後記 ☆

こんな私のレポを最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
さぞ、お疲れになったことでしょう。 私も疲れました。(肩こったー。)

第6幕の翌日の13日の夜、拓哉君の誕生日のお祝いもそこそこにレポ作成に取りかかったのですが、思った以上に難しく、時間ばかりが過ぎていき毎日が睡魔との戦いでした。
拓哉君が『カムフラージュ』がヒント。と言っていたのがどうしても気になります・・・・いい曲ですよね。

私が第6幕で印象深かったのは、由理を抱いてしまったシーンと実那子の思い出を語るシーンです。
特に実那子の思い出を語るところで直季が「青春時代捧げちゃったよ。」というセリフに直季の想いを感じてしまって。

「第6幕」は私にとって忘れられない思い出になりました。ありがとうございました。
ますます木村拓哉が頭から離れない Nokkoでした。


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